研究内容

有機合成化学研究室では有用な有機合成反応の開発と生物活性物質の合成に関する研究を両輪とし、化学的・生物学的に興味深い現象の謎に迫る研究テーマに取り組んでいます。フラスコの中で始まる有機合成化学が、ある生命現象を解き明かす大きなパワーを秘めているのです。

微生物制御物質の合成研究

病原性を持った微生物に対処するには抗生物質を飲んだり、殺菌剤を撒いたりするのが一般的です。しかしこの方法では「必ず」耐性菌が出現します。よって耐性菌が現れない、もしくはその可能性が限りなく低い新しい手法が求められています。その可能性を秘めた手法として、微生物の生活環を制御する信号物質の利用に注目しています。例えば増殖のために必要な因子や、次世代を生み出す為に必要なホルモン様物質などを「化学的に合成」し、誘導体の合成によってレセプターなどの研究が可能となります。微生物を殺すことなく毒素の生産を止めるなど、耐性菌の出現しづらい次世代型薬剤の開発につながるものと期待されています。

利便性の高い反応の開発と天然物合成への展開

生物活性を有する天然有機化合物にはヒドロキシ基をもつものが数多くあります。立体選択的にアルコール類を合成するための手法も多数ありますが、高い鏡像体純度を持つ化合物を簡便に合成できる手法は限られています。Sharpless不斉ジヒドロキシ化反応は非常に簡便な操作で高い立体選択性を発現することができる手法であり、一般にはその名の通り2つのヒドロキシ基を基質へ導入するために用いられています。この手法の応用として2つのヒドロキシ基のうち、片方はそのままに、もう片方のヒドロキシ基を「足場として利用する」手法を開発しています。様々な官能基への変換や増炭反応を行うことができるため、生物活性物質の全合成に適用することができます。

ナノ空間をもつ多孔質材料の化学

天然多孔質材料(ゼオライトや粘土鉱物)や人工多孔質材料(メソポーラスシリケートや、独自に開発した機能性窒化炭素)がもつ固有のナノ空間に、特に不安定な有機分子を取り込み、長期間安定に貯蔵すると同時に、その有機分子をナノ空間表面に配置した金属イオンやプロトンに配位させることで活性化し、さまざまな化学反応を加速する現象を探求しています。

トンネル状ゼオライト空洞中での不安定炭素カチオン種の可逆的発生と,安定・長寿命化の解明 J. Am. Chem. Soc., 139, 8612 (2017).

トンネル構造をもつ白色の酸性ゼオライトにアルコール(Ar-CHOH-Ar)を加えると,ゼオライトは黄色に変わります。これは空洞中で起きるアルコールの脱水反応で生じた、不安定な第2級炭素カチオンによる着色によるものです。しかも室温下で長時間、黄色は維持されます。この試料を少量の水蒸気にさらすと、直ちに黄色は消えますが、これは黄色炭素カチオンへの水和で、元の無色のアルコールに戻るためです。さらにこの試料を真空下で排気すると、再び炭素カチオンが再生し、黄色に戻ります。この白色→黄色→白色→黄色→の変化は何度でも繰り返されるのです。この現象は、通常室温下でマイクロ秒の寿命しかない不安定炭素カチオンが、ゼオライトの狭い空洞内では熱力学的・速度論的に安定化されることを意味しています。

金触媒を用いた直接的エーテル環合成法の開発

 マイトトキシンに代表されるポリエーテル系天然物は“ハシゴ状”にエーテル環が連結した特徴的な構造を有しています。私たちは金触媒環化反応に着目し、理論計算を用いて各段階の詳細な解析の結果、① 環化段階は熱力学的に不利、② 「プロト脱金化」段階が高い活性化エネルギーであるものの、③ プロトン源の添加により熱力学的・速度論的に加速しうることを明らかにしました1)。本結果を基に、望む環サイズを選択的に構築する新手法を開発しました。さらに本環化反応とクロスカップリングとの連続反応を設計することで、6-6 縮環構造と 6-7 縮環構造を選択的に作り分けることにも成功しており、多環式複雑化合物の合成法の新たな方法論になることを実証しました。

海洋産ポリエーテル系天然物の合成研究

 渦鞭毛藻が生産する海洋産ポリエーテル系天然物はどれも巨大でユニークな構造と強力な生物活性を有していることから、天然物化学、有機合成化学、生命科学の分野で注目を集めています。研究室では以下の海洋産天然物の効率的合成戦略および合成手法の開発を行っています。

理論計算支援による新反応、新奇機能性分子の設計、合成

 「目的の位置に」「直接的・効率的に」官能基を導入することができれば、新しい合成戦略の提案につながり、天然物合成や医薬品の構造活性相関研究などの分野に大きく貢献します。研究室では理論計算、実験化学の両方面から反応系全体を緻密に設計することで各元素の特性を活用した合成戦略を変える多彩な反応、分子創製法を開拓しています。

東京農業大学 生命科学部 分子生命化学科

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